親が認知症になると実家は売れない? 成年後見なら10年で240万円〜、家族信託との費用比較
文:koyo
この記事のポイント
- 親が認知症で意思能力がなくなると、子どもが代わりに実家を売ることはできない
- 成年後見で専門家が後見人になると、報酬は月2万〜6万円(東京家庭裁判所の目安)が亡くなるまで続く
- 家族信託は親が元気なうちに契約すれば、子どもが家庭裁判所の許可なしで実家を売れる
- 2026年6月成立の改正民法で、成年後見は必要な範囲・期間に限って使う制度に見直される(2028年12月までに施行)
親が認知症になると、子どもが代わりに実家を売ることはできません。成年後見の報酬は月2万〜6万円が亡くなるまで続きます。元気なうちにできる家族信託との違い、費用、売るときの税金まで。
親が認知症になり、判断する力が十分でなくなると、親名義の実家は子どもが代わりに売ることができません。委任状があっても同じです。施設の費用にあてようと実家を売りたくても、そのままでは手続きが止まってしまいます。
認知症になってから売るには、家庭裁判所に「成年後見人」を選んでもらう必要があり、専門家が選ばれると月2万円以上の報酬が亡くなるまで続きます。10年なら240万円〜480万円です。親が元気なうちなら「家族信託」で、子どもが売れるように準備しておくこともできます。
なぜ売れなくなるのか
不動産の売買は契約なので、売る本人に「契約の内容がわかる力(意思能力)」が必要です。意思能力がない状態で結んだ契約は無効になります。不動産会社や司法書士は売主本人の意思を確認するので、認知症が進んでいると、家族が代筆しても売買は進められません。預金の引き出しや定期預金の解約も、銀行が認知症を把握すると止められることがあります。
3つの方法と、使えるタイミング
| 方法 | いつ始める | 実家を売るには | 費用の特徴 |
|---|---|---|---|
| 成年後見(法定後見) | 認知症になった後 | 後見人が売る(自宅は家庭裁判所の許可が必要) | 専門家が後見人なら月2万〜6万円が亡くなるまで |
| 任意後見 | 元気なうちに契約 | 認知症になった後、任意後見人が売る | 監督人の報酬(月1万〜3万円程度)が続く |
| 家族信託 | 元気なうちに契約 | 受託者の子どもが売る(裁判所の許可は不要) | 初期費用が中心。家族が受託者なら月々の報酬なし |
成年後見の費用:10年で240万円〜
認知症になった後に使えるのは、家庭裁判所が後見人を選ぶ成年後見だけです。後見人には子どもなど家族がなることもできますが、財産が多い場合などは弁護士や司法書士が選ばれることが多く、家族が選ばれるのは全体の2割ほどです。専門家が後見人になると、報酬は本人の財産から毎月支払います。
| 管理する財産 | 月額の目安 | 10年間の合計 |
|---|---|---|
| 管理する預貯金などが1,000万円以下 | 2万円 | 240万円 |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 3万円〜4万円 | 360万円〜480万円 |
| 5,000万円超 | 5万円〜6万円 | 600万円〜720万円 |
東京家庭裁判所が公表している基本報酬の目安です。実家の売却など特別な仕事をした年は、これに付加報酬が上乗せされます。注意したいのは次の3点です。
- 一度始めると、原則として亡くなるまでやめられない:実家を売り終わっても、後見は続きます(今の制度の場合。下の改正を参照)。
- 住んでいた家を売るには家庭裁判所の許可が必要:施設に入っていて今は住んでいない家も対象です。施設費用にあてるなど、売る必要性が認められないと許可は出ません。
- 財産は「親のため」にしか使えない:孫への贈与や、相続税対策のための資産の組み替えはできなくなります。
2028年までに成年後見の制度が変わる
2026年6月に成立した改正民法で、成年後見は大きく見直されます。判断能力の程度で「後見・保佐・補助」に分かれていた仕組みのうち、後見と保佐が廃止されて補助に一本化され、本人に必要な範囲・必要な期間に限って使う制度になります。今のように「一度始めたら亡くなるまで続く」形からは変わる見込みですが、具体的な運用は施行までに示されます。
施行日は、公布(2026年6月24日)から2年6か月以内に政令で決まります。遅くとも2028年12月までですが、それまでは今の制度のままです。すでに後見が始まっている人の扱いや、報酬の考え方がどうなるかも、施行に向けて決まっていく段階です。
家族信託なら、子どもが売れる
家族信託は、親(委託者)が元気なうちに、実家などの管理や売却を子ども(受託者)に任せる契約です。名義は子どもに移りますが、売ったお金や家賃は親のもの(受益者)として、親の生活費や施設費用に使います。親が認知症になっても、子どもが自分の判断で実家を売れ、家庭裁判所の許可もいりません。
家族信託は専門家報酬(信託財産の1%前後、最低30万円程度)に、公正証書・信託登記の費用(20万円前後〜)を足した目安。成年後見は基本報酬のみで、付加報酬は含みません。
家族信託の費用は最初にまとめてかかり、家族が受託者になれば月々の報酬はかかりません。ただし、契約できるのは親が内容を理解できるうちだけです。「少し物忘れが出てきた」段階で相談を始めるのが現実的です。
売るときの税金も知っておく
家族信託で子どもが実家を売っても、税金の上では親が売ったものとして扱われます。親が住まなくなってから3年目の年末までに売るなどの条件を満たせば、親の「居住用財産の3,000万円特別控除」を使えます。親が亡くなった後に相続した実家を売る場合は、空き家特例の条件と期限が別にあります(相続した実家を売るときの税金)。
施設の費用の目安は親の介護費用に、相続税がかかるかどうかは相続税はいくらからかかるかにまとめています。
出典・参考にした資料
- 東京家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」
- 裁判所「居住用不動産処分の許可」
- 法務省「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」
- 国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例
記事中の金額は、これらの資料にもとづいて当サイトの計算ロジックで算出した概算です。